今季取り組んでいるJ. ラター作曲の『FOUR ACCOMPANIED ANTHEMS』は4つの楽曲からなっています。これら宗教曲の英語の歌詞はどこから採られているのでしょうか?
楽譜の各曲の冒頭にヒントがあります。
次に《FOR THE BEAUTY OF THE EARTH》は,p. 12に「Word by F. S. Pierpoint(1835-1917)」とあります。ピアポイントさんも讃美歌作家で詩人だそうで,この詩は最も有名なものの一つだそうです。
続いて《LOOK AT THE WORLD》ですが,p. 31に「Words and music by JOHN RUTTER」とあります。この曲はイングランド田園保護評議会からの委嘱に応えて作曲したそうです。
と,ここまでは出自が比較的明確なものです。問題は,歌詞の少ない《I WILL SING WITH THE SPIRIT》です。p. 23には「I Corinthians 14. v. 15」とあります。「コリントの使徒への手紙1の第14章第15節」という意味です。歌詞は「I will sing with the spirit; alleluia. And I will sing with the understanding also; alleluia」だけです。そこで聖書(共同訳聖書実行委員会『聖書 新共同訳』日本聖書協会発行1993)にあたってみました。すると次のように載っていました。
「15 では,どうしたらよいのでしょうか。霊で祈り,理性でも祈ることにしましょう。霊で賛美し,理性でも賛美することにしましょう。」(p.(新)318)
ここには「sing」にあたる言葉は出てきませんね。違うところに元のテキストがあるのでしょうか?そこで手元にあった英語版の聖書(AMERICAN BIBLE SOCIETY"GOOD NEWS BIBLE TODAY'S ENGLISH VERSION"1992)にあたってみました。すると「 1 corinthians 14」のpp.1383-1384に次のようにありました。
近づきましたね。歌詞の文言そのままではありませんが意味的にはほぼ同じ(ように私には思えます)。「sing」ってのは「歌う」ことですが,それは同時に「賛美する」ことなのでしょうね。
ついでにこれまた手元にあるドイツ語の聖書(「DIE BIBEL NACH DER ÜBERSETZUNG MARTIN LUTHERS」DEUTSCHE BIBELGESELLSCHAFT STUTTGART刊)ではどうなっているのか調べてみました。すると「1. KORINTHER 14」のp. 208に次のようにありました。
ちなみにコリントの使徒への手紙1の第14章とは「異言と預言」と題されていて,「2 異言を語る者は,人に向かってではなく,神に向かって語っています。それはだれにもわかりません。」「3 しかし,予言する者は,人に向かって語っているので,人を造り上げ,励まし,慰めます。」「13 だから,異言を語る者は,それを解釈できるように祈りなさい。14 わたしが異言で祈る場合,それはわたしの霊が祈っているのですが,理性は実を結びません。」とあるのに続いて「15 では,どうしたらよいのでしょうか…」となります。
宗教曲の歌詞は,日本語としても難しいのですが,それは外国語からの翻訳であるためでもあり,宗教的な意味の難しさもあるのだと思います。信者でない私たちが歌うにあたっては,全て理解し納得して歌うことは難しいにしても,他の世俗的な楽曲同様,テキストの内容を可能な限りより深く理解しようとする姿勢をもつことが大切だと思っています。