3月1日(金),巷では県立高校の卒業式が行われたこの日,久しぶりに音楽の授業をさせてもらいました。卒業学年に呼ばれたのです。6年生は卒業式で「旅立ちの日に」を歌うことを選び,それに向けて児童を中心に練習に取り組んできていました。彼らはリーダーを中心に自分たちの課題を「主旋律の最後の『大ーー空にー』のところのコツが知りたい」「地声を歌声にするためのほうほうを学びたい」「声の質を変えたい」とまとめて私のところに持ってきました。この学年の担任団は児童の力を信頼して,自分たちのことは自分たちに任せる,というスタンスで1年間育ててきています。卒業式の歌の「学習」(うちの職場には「「練習」で終わらないように」と口うるさく言ってきています)についても同じスタンスで見守りながら指導してきていました。
入学時から知っている,久しぶりに相対した子どもたちは大きく成長していました。まず初めに一通り聴かせてもらいました。2部合唱の各声部の音はほぼとれていて,声も大きく出て,歌詞も迷わず歌えていました。しかし力んで声を出しているので苦しそうだし溶け合い(ハモリ)ません。高い音になるとか細い裏声になってしまっていました。
自分たちの出来具合に点数をつけさせて自己評価させ,足りない点を言語化することで課題を把握させ,この時間のゴールを確認することで見通しを持たせました。これはどの教科でも使える,学びへの動機付けの方法です。
まず初めに,声質を変えることの理由を伝えました。弦楽アンサンブルや管楽アンサンブルを例に,似た音色だと聞き分けられないほど溶け合ってハーモニーするという原理です。すんなり納得してもらえました。そして「声も楽器」ととらえさせました。
変ロ長調で書かれているこの編曲は音域が低いので,この子どもたちの声質を改善する・発声法を変えるには難しいと感じました。そこで,ユニゾンで歌い出す前半の部分を移調してどんどん上げていきました。ハ長調→ニ長調→ヘ長調→ト長調(ホ長調や変ホ長調がないのは伴奏が難しいから)。ト長調だと歌い出しがh音,その部分の最高音が高いg音になります。これまでの発声法では苦しくて当然声が出ません。でも私が出してみせると「可能なんだ」ということが伝わります。そこで「ではどうすれば出るか」と発声法のアドバイスをしました。例の「身体は管楽器」「管を太く感じて」「息を流す」「声は「出す」のではなく,「結果として音が出る」と思え」と。
このようにして声を出させていても,最初はおかしかったり恥ずかしかったりで,自分の身体と心を解放できません。そこで犬を例に出し,「鳴き声を通して犬の気持ちが伝わるとき,犬は「伝えよう」と思って声の出し方を考えて吠えているか?気持ちが伝わるのは,真にそんな気分になって声が出たとき。だから「伝わるようにしよう」とか「へんだなぁ」なぁんて頭で考えたら気持ちなんて伝わらない。」と,声楽表現の基本の基本の話をしました。するとこの子どもたちはすんなりと理解してくれて,鳴らしたり吠えたりする発声に抵抗なく取り組み真似するようになりました。その声(音)のまま高いト長調の主旋律を(歌詞なしで)歌わせました。すると高い音が頑張らなくてもすっと出たのです。しかしまだか細い。そこで「ケチケチしないでもっともっと息を管に送り込みなさい」とやってみせると,すぐに真似します。すると自分たちが思った以上に大きな音が高音域でも出たのです。驚いていました。そうしたら後は音域が下がってくる時に同じ方法で声を出させる,つまり「楽器を変えない」「楽をさせない」だけ。「歌うってことは運動だからね!」「(出しやすい音域でも)手を抜かない!」「(高音域での息を送り込んで)攻めなさい!」とビシビシとハッパをかけました。
結果,はじめとは驚くほど変わった豊かな響きと2声部の溶け合いの合唱になりました。授業のはじめと終わりの時間に他用で廊下を通り過ぎた職員が,授業が終わってから「はじめと終わりでは全然違う合唱になっていた!1時間であんなに変わるなんて!」と驚くほどでした。
子どもにはたくさんの伸び代があります。そのポテンシャルを引き出すには,子どもに自分自身のスイッチを入れさせることです。どうすればスイッチを入れさせることができるのか。そこが教材研究のしどころですね。教材を研究する,それも指導する相手を念頭に置いて研究的に教材を見る。そうしておくことで,教育の(音楽の)現場で結果的に相手にスイッチを入れさせるという結果に行き着くことができます(そううまくいかない場合もありますが)。あと何回もできない「授業」という場を提供してくれた担任団と,呼んでくれた子どもたちに感謝です!楽しい時間でした。
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